ユウナの良くわかる世界観(併合演説の功罪)
出典: 機動戦士ガンダムSEED Revival
目次 |
[編集] はじめに
- ユウナ
- さてさて、今回はメサイア攻防戦以降の歴史を紐解いてみよう。
- ソラ
- 歴史ですか。
- 年表とかを覚えるのって結構面白いですよね。
- なんか、小説読んでるみたいで。
- ユウナ
- まあ、現実の歴史は小説のように面白おかしくはないけれど、時として現実は小説よりも奇なりというね。
- 今回取り上げるのは、この5年間でその言葉が一番当てはまる出来事かもしれないよ。
- ソラ
- 何なんです?
- ソラ
- は~い
[編集] 併合演説に否定されたもの
- ユウナ
- 前にも少し話したことがあったけれど、併合演説の行われるタイミングの話からしようか。
- メサイア攻防戦の直後、併合演説は執り行われた。
- 本来の意図から言えば、この演説はオーブ連合首長国とプラントの戦闘終結宣言のみが行われるのが通例だと思う。
- しかし、併合演説はそれ以上の意味をこの世界に投げかけることになった。
- ソラ
- それ以上の意味……ですか?
- 戦争が終わること以上の?
- ユウナ
- そう。
- この併合演説によって否定されたものが3つある。
- 一つは「大量破壊兵器の使用」の否定。
- 一つは「プラントの国家機能」の否定。
- そして最後に最も重要なもの。それが「国家主義の否定」だ。
[編集] 大量破壊兵器の使用の否定
- ソラ
- 否定ばかりなんですね。
- でも、大量破壊兵器の使用の否定って当たり前じゃないですか?
- ユウナ
- その点については、非常に微妙な問題をはらんでいるんだ。
- ソラ君は「毎日戦闘は起きるけれど、全人類が滅びるような戦闘は起きない」のと「戦闘はめったに起きないけれど、おきたら全人類が滅びる」のとどっちがいい?
- ソラ
- そんなの、どっちもダメですよ。
- ユウナ
- そら、そうだね。
- でも、人はどちらかを選ばなければいけないという側面もある。
- 核やジェネシスのような破壊力を持っている兵器を手にしたときには特にね。
- ソラ
- 戦争が起きることそのものがダメじゃないですか。
- それをしないで、そんな二択をしなければいけないなんて、それこそ逃げじゃないですか。
- ユウナ
- これは手厳しいな。
- 少し分かりやすくするために、話を局所化してみようか。
- ソラ君はあったこともない人と話をしなければならないとしよう。
- そして、その人は銃を持っているとソラ君は「思っている」とする。
- さて、ソラ君はその人と話を出来るかな?
- ソラ
- 武器を持っている人と話が出来るか?ってことですか?
- それは、難しいとは思いますけど……
- ユウナ
- そう、難しい。
- では、それならどうすればいい?
- ソラ君はその人とどうしても話しをしないといけないとしたら。
- ソラ
- う~ん……
- 銃を捨ててもらうように頼んでみます。
- ユウナ
- では、その人はこう言ったとしよう。
- 「今日は銃を持っていないよ。さあ、話をしよう」
- ソラ君はそれをどうやって信じればいいかな?
- ソラ
- 信じる?
- ユウナ
- そう。もしかしたらその人は銃を隠し持っているかもしれないし、銃は持っていないかもしれないけど、ナイフを持っているかもしれない。
- 本当にもっているかどうかは、身体検査でもしなければ出来ないし、その検査をしているときに、隠し持っている武器を使ってソラ君は殺されてしまうかもしれない。
- ソラ
- そんなこと疑っていたら、話なんて出来ないですよ。
- 相手を信頼するのが、話し合いの基本じゃないですか。
- ユウナ
- ではこう考えてみようか。
- その武器はもしかしたら、ソラ君の大事な人を殺すかもしれない。
- それでも、信頼するしかないのかな?
- ソラ
- それは……
- ユウナ
- 人は、そういうときにどうするのか?
- そういう場合、人は必ず担保をとろうとすることは歴史が証明するところなんだ。
- ソラ
- 担保ですか?
- ユウナ
- 例えば、さっきの例のように武器を隠し持っている人と話すときには、「相手が武器を使ったら、その人も武器を使われる」状態を維持しようとする。
- そうすることによって、相手にも武器を使う「リスク」を負わせる。
- リスクを共有するといってもいいかもしれない。
- ソラ
- それは、自分も武器を持っていくってことですか?
- ユウナ
- 具体的にはそういうことになるね。
- 要するに、そういった脅威に対して、人は相手も同じようなリスクを負っていないと、相手を信頼できないってことなんだ。
- 悲しいけれど、これは避けることの出来ない現実だと思う。
- そして、最も大きな悲劇はそのリスクのバランスが崩れてしまったときに起きるものなんだ。
- ソラ
- バランス……。
- 相手だけ武器を持っているとか?
- ユウナ
- 歴史に目を向けてみよう。
- 近代に入っての大きな悲劇の代表と言えば、血のバレンタインとそれに続くニュートロンジャマー投下による世界的電力不足だということが出来ると思う。
- 例えば、血のバレンタイン。
- もし、あの時点でプラントがニュートロンジャマーをもっていることが連合に分かっていたとしたら、連合は果たして核をユニウス7に撃てただろうか?
- 逆に、ニュートロンジャマーの存在を連合が知っていたとしたら、連合はプラントに対してユニウス7だけの攻撃で終わらせていただろうか?
- ニュートロンジャマーが後のエイプリルフールクライシスにつながることを認識できていたとしたら、そんな脅威を放置することが出来る軍はこの世には存在しないだろうね。
- ソラ
- 血のバレンタインで核が使用されたことが全ての問題を引き起こしているってことですよね?
- ユウナ
- そう物事は単純には出来ないかもしれないね。
- 何しろ、連合は核を使用し、結果として20万もの人々が死に追いやられた。
- でも、その対策としてプラントが地上にばら撒いたニュートロンジャマーは間接的な被害まで含めれば総人口の1割を死に追いやったという統計も出ている。
- ある意味、ニュートロンジャマーこそが大量破壊兵器そのものであるといってもいいくらいだね。
- そんな究極の虐殺を行ったプラントと連合は戦わなければならなかった。
- それは、もう利権だとか競争の感覚を超えて、感情の問題だったといっていいだろう。
- 「そんな危ない連中を放置など出来るはずもない」とね。
- ソラ
- そして、戦争になる。
- また多くの人たちが死ぬ。
- それの繰り返し………
- ユウナ
- それをとめるために、カガリ=ユラ=アスハは併合演説の文言の中に「大量破壊兵器の使用」の否定を加えたと僕は考えているんだ。
- 本来は、メサイアにあったネオジェネシスやレクイエムを「管理下」に置くのが通常の判断だと思う。
- それでも彼女はそれを選択することは無かった。
- これは大量破壊兵器が生み出す悲劇を目の当たりにしたものであれば、当然と言ってもいいかもしれない。
- ただ、この判断は後の世から一つの可能性を奪うことになる。
- ソラ
- 可能性?
- ユウナ
- つまり、「戦闘はめったに起きないけれど、おきたら全人類が滅びる」という世界を構築する可能性だね。
- ソラ
- そんな世界にしていいはず無いじゃないですか!!
- ユウナ
- こういう状況を旧世紀では「冷戦」と呼んでいたらしいけれど、実はこの冷戦によって得られた「非戦闘状態」によって、世界は飛躍的に発展したんだ。
- 世界の危うさを担保にして人類は発展を遂げてきたわけだ。
- 確かに、戦争は起きなかった。
- その間に何度も地球を滅ぼせるだけの兵器を蓄えていようともね。
- その兵器が使われないのであれば、見た目の「平和」を民衆は享受できる。
- ソラ
- 平和……なんですか?それは。
- そんなの平和って言えるんですか?
- ユウナ
- そう。これは平和じゃない。「非戦闘状態」でしかない。
- それでも人々はその「平和」を享受し、時折起きる戦闘をモニターの向こう側に押し込めてきた。
- それは今でも全く変わってはいないけれどね。
- ソラ
- この間の諦めてしまった人々の話ですね。
- ユウナ
- そして、併合演説ではレクイエム、ネオジェネシスの破壊が明文化された。
- これはカガリ=ユラ=アスハという政治家が冷戦構造を否定したことを意味する。
- これが冷戦の危険性を危惧した上での判断なのか、単に大量破壊兵器の否定を行うためだったのかはわからない。
- ただ結果として、事の是非は置いておいて、世界は戦闘行為を捨てることは出来ない状態になっている。
- もっとも、どんな判断をしようとも、戦争が一気に無くなるなんて魔法のようなことは出来るはずもないけれどね。
- ソラ
- カガリ様は……諦めていない……。
- そういうことなんですよね?
[編集] プラントの国家機能の否定
- ユウナ
- ……うん。
- そうだね。
- 併合演説の時も彼女は全く諦めていない。
- 併合演説の内容はプラントの吸収合併という非常に攻撃的なものであるにもかかわらず、結果として彼女は一切の戦闘行為をプラントとしていない。
- これはある意味、この5年の彼女の治世の中で最も大きな結果だと言えると思うよ。
- ソラ
- プラントとオーブが戦争をしないですんだのは、カガリ様のおかげなんですね。
- やっぱり、諦めないでがんばっていればきっと世の中は良くなるって、カガリ様は信じているんですよ。きっと。
- ユウナ
- まあね。
- ただ、そのために彼女がしたもう一つの否定。
- 「プラントの国家機能」の否定。
- このことにもきちんと目を向ける必要があると思うよ。
- ソラ
- 文字通り受け取ると、プラントはもう国としてやっていけませんって言うことですか?
- ユウナ
- その通りだね。
- 事実、プラント最高評議会という政治機構は事実上ザフトという「政党」の一党独裁状態にあった。
- このザフトという組織は単純にプラントの軍隊の総称として受け取られがちだけれども、実体としては武装組織が政権政党として振舞っているというほうが正しい。
- つまり、プラントそのものが軍事政権国家だったわけだね。
- そして、その事実は併合演説の直後プラントは依然として一国家であり続けていたわけだから、この併合演説のプラント併合という案は無茶を通り越して無謀に響いた。
- 軍事国家に戦争をしないために併合されろということだからね。
- ソラ
- そう……ですよね。
- でもプラントは併合された。
- それは……何故なんですか?
- ユウナ
- それはラクス=クラインというたった一人の人物の存在といっていい。
- クライン派クーデターと呼ばれるクーデターがメサイア攻防戦直後に起こり、事実上プラント評議会は形骸化してしまったんだ。
- その結果、プラントはその厭戦気運もあいまって、併合をとんとん拍子で受け入れることになったんだ。
- ソラ
- クーデター……ラクス様が……
- ユウナ
- ラクス=クラインがこのクーデターに関係していないという人もいるけれども、このクーデターの情報を全く把握していないと言うことは絶対に無いと思う。
- 結果として、クライン派クーデターはほぼ無血革命といっていいほどスムーズに進んだ。
- これはプラント国民が戦争をやめたがっていたこともそうだけれども、ラクス=クラインに対する妄信といっていいほどの信頼が根底にあったと思う。
- 元々ザフトの広告塔として活動していた彼女がその解体にその知名度が活かされたというのは皮肉以外の何者でもないと僕は思うんだ。
[編集] 国家主義の否定
- ソラ
- でも、結果として人が死なずにすんだのなら、それは正しいことだったんですよね?
- ユウナ
- そう。結果を見ればこのクーデターは最も犠牲を抑えることが出来たと言える。
- でも、その行為そのものはいわゆる「売国奴」と言われる類のことだ。
- 彼女はプラントという国を売って、プラント国民を守った。
- それをもって、「正しい」と僕は口が裂けてもいえないな。
- それは、否定された最後の一つ「国家主義の否定」にも関わるんだ。
- ソラ
- 国家主義って何ですか?
- ユウナ
- 国家主義というのはものすごく乱暴に言ってしまうと、国と個人を天秤にかけて国を選ぶ主義ということになるかな。
- 対義語としては無政府主義という言葉が上げられる。
- ソラ
- う~ん。
- 何が何だがさっぱりですね。
- ユウナ
- この辺りは、本当に必死に勉強しないと理解できないところなんで、ものすごく極論を言う形になっちゃうけれど、ラクス=クラインやカガリ=ユラ=アスハの目指す世界はこの「無政府主義」の方になるんだ。
- もっとも超個人主義と言い換えたほうがよりぴったり来るけれどね。
- つまり国家よりも個人が重要。
- 組織よりも個人が重要。
- その中で個人の幸せのために国家がある。
- ソラ
- 違うんですか?
- 国は個人の幸せのためにあるんじゃないんですか?
- ユウナ
- そこだけは僕も同感だけど、国家よりも個人が重要という考え方はどうしても受け入れることが出来ないね。
- 国家は個人を守るために在る。
- でも個人を守ってくれる国家よりも自分自身が大事という考え方は、他人よりも自分が大事という考え方につながってしまう。
- もう少し広げて、自分の親しい人と他人を比べて、他人のために自分を含めた親しい人を差し出すという考えを否定してしまうと、それは理解できない人は永遠に理解しあえないということにつながってしまう。
- ソラ
- そ、そんな。
- カガリ様やラクス様はそんなこと言っていないじゃないですか。
- ユウナ
- でも、ラクス=クラインはクライン派クーデターを起こし、プラントという国家を解体した。
- カガリ=ユラ=アスハは併合演説後、プラントの国家解体を支援し、結果オーブの一部としてしまった。
- 結果、両国の国民が戦争の犠牲になることは最小限に留めることができた。
- でも、プラントの国民の中でザフトに誇りを持っていたような人々のプライドはズタズタに引き裂かれてしまったと言っていい。
- そして、そういった人々の鬱屈した思いは、地下にもぐる。
- シンのようにね。
- ソラ
- シンさんって……プラントの人だったんですか?
- ユウナ
- まあ、シンの場合はもっといろいろと複雑なんだけど、それは本人から聞いてみてね。
- プラントという国家は元々種族防衛のために出来上がっている経緯があるので、特にコーディネイターであるということは、彼らのアイデンティティの一つといっていい。
- それが戦後のプラント解体により、圧倒的多数を占めるナチュラルとうまくやっていくために障壁になることも多かった。
- 事実、ナチュラルに対する偏見は多くのプラント国民の中に潜在的にあったし、コーディネイターに対する恐れもやっぱりナチュラルの中にあり続けた。
- この辺りの精神的ケアなしに、同一の組織体にまとめるのは無理というものだろう。
- ソラ
- ………
- ユウナ
- つまり、ザフトの特に軍人にとっては、この併合は受け入れられる類のものじゃないんだよ。本来は。
- それでも、ラクス=クラインが言うから、ラクス=クラインを信じていれば、そう彼らは思って、現状に甘んじているといっていいだろう。
- ソラ
- それって……個人を捨ててます……よね?
- 自分で判断せずに、ラクス様に従っていれば……いいって……
- ユウナ
- そう。
- まさに彼らは個人の義務と権利を放棄している状況と言っていい。
- 矛盾を感じないかい?
- 併合演説では国家主義を否定して、結果として彼ら個人は自らのアイデンティティを否定されてしまっている。
- この矛盾こそが、僕達が戦っている理由なのかもしれない。
- ソラ
- 自分の誇りを取り戻すために……戦う……
- ユウナ
- そういってしまうと、薄っぺらく聞こえてしまうけどね。
- 国というのは、人々の思いの結晶なんだ。
- その国という概念を取り払い、一つにしてしまうと言うのは、事実自分の国や民族への誇りを捨て去れと言うのと同じだと、僕は思う。
- そして、その誇りを捨てるというのは、僕たちの先祖達が必死に紡いできたものを否定することになってしまう。
- それだけは、どうしても受け入れられない。
- ソラ
- 国と誇り………
- ユウナ
- まあ、今回は併合演説を解説したけど、つまるところ、その国家と誇りという要素こそが、統一地球圏連合に最も不必要で、もっとも廃絶されるべき要素だという現実は、今の戦争全体に関わることだと思うよ。
- ソラ
- はい………
- ユウナ
- 今回は特別、複雑な話になってしまったね。
- それでも、あの併合演説のような世界的偉業とされるようなことであっても、必ず正の要素と負の要素が内包されている。
- そのことを意識して考えてみて欲しいな。
- よし、今回はここまで。
- ソラ
- ありがとうございました。
















