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カガリ=ユラ=アスハ暗殺計画 前編

出典: 機動戦士ガンダムSEED Revival

(Phase-01-11 から転送)

統一地球圏連合政府中央政庁は、オーブのオロファト市中心部の官庁街、そのやや西寄りにそびえ立っている。

高さは400メートル弱、地上100階を越えるその姿は天を貫く柱にも雲海へと繋がる門にも例えられ、統一連合の権威の象徴として威容を誇示していた。主席公邸の最上階は丸々主席代表専用の執務フロアとなっている。豪奢な内装の施された廊下を藍髪の青年士官が歩いていた。


年の頃は20代前半。若々しい引き締まった体躯を、統一連合正規軍の第一種軍装で包んでいる。

胸元の階級章は少将。

だがその整った容貌を見れば、若年に似合わぬ階級を疑問に思う者は殆どいないだろう。現主席の側近中の側近である近衛総監アスラン=ザラを知らぬ者は、軍には皆無なのだから。

従者の案内で、アスランは目指す部屋の前へとたどり着く。受付の秘書官に形式的な手続きをすますと、部屋へ通じる重厚な木製扉が開いた。

扉の奥に広がっていたのは、主席が休息や仮眠を取るためのプライベートルームだ。広々と広がる室内の内装や調度品は、よく吟味されているものの華美とは程遠い。万事において気取らない主の為人(ひととなり)を反映したのだろう。

窓際で眼下の市街を見下ろしていた人影が、ゆっくりと振り向く。金に近い琥珀色の瞳が真っ直ぐにアスランへと向けられた。背筋を伸ばし、アスランは敬礼をした。


「お迎えに上がりました、主席」

「ご苦労、ザラ少将」


統一連合主席代表カガリ=ユラ=アスハは、今年で23歳を迎えた。

いつもは妙齢の女性にも関わらずオーブ首長服の上下で通しているものの、今は式典のためにドレスを着ている。オーブの民族衣装を現代風にアレンジした薄緑色のドレスはカガリに良く似合っていた。

大胆に開いた首筋から肩にかけてのラインを隠すように、純白のマントを羽織っている。数年前から伸ばし始めた金髪は、結い上げず自然に背筋の中程まで流されていた。よく見ると、どこか少年じみた顔にも薄っすらと化粧が施されているのに、アスランは気づいた。


「まだ時間に余裕はあるが、そろそろ行くとするか。アスラン」


上品に微笑むカガリに、アスランは一礼した。






空調の効いた中央政庁から出ると、オーブの暑い空気が広がっている。主席公邸を出発した公用車の前後に、SPを乗せた護衛車両が半ダースほど続く。後部座席では、カガリがうんざりした表情をしていた。


「やっぱりこういうヒラヒラした服は苦手だ。気を抜くと裾を踏んで転びそうになる」


そういってドレスを摘み上げるカガリに、アスランは苦笑した。

20を過ぎて猫の被り方を覚えても、こういう素の部分は変わらないな――そう思いながら、アスランはカガリをたしなめる。


「折角の晴れの式典なんだ。こういう演出が必要なのは分かってるだろう?」


こうやって2人きりになると、ついアスランの口調も昔の俺お前のそれに戻ってしまう。ちなみに公用車の前後は特殊な偏光ガラスで区切られているため、後部座席のやり取りは運転手に届かないようになっている。


「分かっているさ、それぐらい」


口をとがらせたカガリは、窓の外に視線を移す。

首都オロファトの市街を行き交う人々に混じって、要所要所に青とグレーに塗り分けられたモビルスーツが立哨していた。治安警察省特別機動隊保有の無人モビルスーツ、ピースアストレイだ。旧式化したかつてのオーブ軍主力機MBF-M1アストレイを再利用し、高性能AIを搭載した機体である。 武装もスタンロッドや放水銃といった対人非殺傷兵器が中心で戦闘能力は低いものの、暴徒鎮圧やデモ隊の誘導などで大きな成果を挙げていた。

街並みを眺めていたカガリが感慨深くつぶやいた。


「豊かだな、オーブは」

「ああ」


アスランもそれにうなずく。

「カガリやラクスががんばったからさ。おかげで『統一地球圏連合』という、やっと世界を平和に出来る仕組みも作る事ができたからな」


―『統一地球圏連合』―

通称、統一連合。

これはメサイア攻防戦。後の世に言う「第二次汎地球圏大戦(ロゴス戦役)」後、オーブが提唱した新しい国際的政治体制である。

過去二度にわたって世界は、人類絶滅すら危ぶまれるう世界規模の大戦争を引き起こした。その反省から戦争勃発の危険を廃し、地球圏の恒久的平和の実現を求めて設立された。それが『統一地球圏連合』である。

世界の国々は統一連合に加盟し、政府と議会が制定した「統一地球圏連合憲法」と、加盟各国の代表者(人口に合わせて増減。数名~十人前後選出)より構成された議会「統一地球圏連合最高議会」。そこで承認を受けた各連合政府機関のもとに、統治される。

議会からは代表主席が一名選出され、強力な権力によって軍や政府機関を統括していく。加盟国は地球圏連合憲法の枠組みを超えて行動してはならない。また議会や政府の決定に服す義務を有する。

その代わりに、国家間の諸問題(紛争や貿易問題、経済格差など)はもちろん、一国で処理できない問題(内戦や財政破綻など)の解決・援助を、議会や政府に求めることが出来る。


事実上、世界を支配する統一政治機構なのである。


オーブが世界各国の有力国をまとめあげて作り上げた経緯から、首都はオーブの首都オロファトに置かれ、そして現在の統一連合代表主席は、オーブ永世首長であるカガリ=ユラ=アスハとなっていた。しかし世界を統べる盟主となったのに、カガリの表情は今一つ浮かない。


「……世界を平和に、か」

「何かあったのか?」


その声の微妙な響きに気づいたアスランが水を向けると、ややあってカガリは答えた。


「ついさっき、西ユーラシア総督からの報告があってな」


ああ、と頷いたアスランは、ようやくカガリの言葉にも納得できた。


CE73に勃発した第二次汎地球圏戦争――ロゴス戦役において、地球で最も大きな被害を受けた国はユーラシア連邦だった。まず開戦のきっかけとなったユニウスセブン落下の際、破片の1つが中心部である西ヨーロッパを直撃。ローマ市が消滅し、穀倉地帯のフランスも大打撃を受けた。

続いて以前からユーラシア連邦政府の施政に反発をしていた黒海沿岸部で分離独立運動が起こる。敵の敵は味方との判断からこの地域はプラントに支援を要請し、プラントもザフトの派遣で答えた。対抗して地球連合も第81独立機動軍やオーブ遣欧艦隊を増援として投入するも、地中海を舞台とした一連の戦いで敗退する。これを契機に反連合の動きはロシアや東欧といったユーラシア連邦東部全域に広がっていった。

追い詰められた地球連合軍は最悪の手段を選択してしまう。ユーラシア政府の黙認の下に超大型モビルアーマー、GFAS-X1デストロイを投入して独立運動の鎮圧を計ったのだ。この事件はモスクワやベルリンといった4つの大都市の壊滅と100万人以上の死傷者を生み出すという悲劇を生み出した。

これに激怒したユーラシア連邦の『東』は、CE74、5月のメサイア攻防戦に前後して『西』ユーラシアに独立と宣戦を布告。『東ユーラシア共和国』を名乗った。以降、翌75年5月にピースガーディアンとオーブ軍を中心とした連合軍が介入するまで、約1年に渡って泥沼の東西内戦が続く。

ユーラシアの欧州半島からシベリアに至る広大な版図は、分断されたまま統一連合に編入される。その分断ラインが旧西暦時代のいわゆる<鉄のカーテン>にほぼ沿っていたのは、歴史の皮肉だろうか。

それでも東ユーラシア共和国は、かろうじて主権を持つ加盟国としての体裁を保っているものの、西ユーラシアは自治権すら放棄した直轄領として、統一連合政府から派遣された総督に統治されている。現在の西ユーラシアは、莫大な数の領域内難民と壊滅した経済、戦禍で荒廃した国土を抱えこみ、統一連合の加盟国からの支援を頼りに、ようやく復興が始まった状態だ。


欧州が人類の中心の1つだった時代は、過去のものとなっていた。


「どうやら、今年の冬は餓死者を出さずにすみそうだけど――」

「去年は酷かったからな。ユニウスセブン落下から続く異常気象が原因で、北半球は記録的な冷夏。そのせいで北半球全体でも500万もの餓死者を出す大惨事だ。しかもその犠牲のほとんどが東西ユーラシアときている」

「私達も、統一連合も打てる手は打った……でも間に合わなかった」

「……」

「こうやってオーブの人間が平和と繁栄を謳歌する一方で、飢えと寒さに怯える人達もいる。矛盾だな」

「そうだな……」


口には出さなかったがアスランは思い出していた。今年の1月から4月にかけて、反統一連合勢力による一斉蜂起。いわゆる『九十日革命』の事を。

統一連合史上最大の悲劇とも言われているこの大反乱は、東西ユーラシア全域を巻き込み、総死傷者数300万人を超える一大惨劇となった。当時、アスランもこの反乱鎮圧のために現地に派遣されたが、死体で埋め尽くされた東西ユーラシアの惨状は、まさに”地獄”としかいい様が無かった。

反乱軍と戦った統一連合軍もその中核は、旧オーブ軍とクライン派ザフトであり、アスランも近衛総監として反乱の最前線ユーラシア戦線に出征した。実の所、近衛総監という地位は、ほとんど名誉職に近い。平時にはカガリの側近と統一連合の監査部の総責任者の兼務。戦時には切り込み隊長を務める事もある。もっとも、その立場を不満に思ったことはないが。


「でも今の世界にオーブの力が必要なのは分かっているだろう」

「……」

「オーブが揺れれば世界が揺れる以上、オーブ市民の不満を呼ぶような政策は取れない。違うか?」

「そのためには、ユーラシアの人達を見捨てろと?」

「彼らからの搾取の上で、オーブが太平楽を楽しんでいるわけじゃない」

「そういう問題じゃないだろう!」


思わずカガリは声を荒げる。たとえ統一連合の元首であっても、現実にカガリが拠って立つ足場はオーブなのだ。


「世界のためだ。泥を被る覚悟ぐらいしろ」

「嫌な話だ……」

「安心しろ。何があっても、俺がお前を守る」

「え?」


アスランの真摯な眼差しに、カガリはきょとんとしてしまった。思わず一瞬、ほんの一瞬だけかすかに頬を赤らめてしまうがもぎ放す様に視線を外すとそっぽを向く。


「ば、馬鹿! そういう事は私じゃなくメイリンに言ってやれ!」

「え、いや、そういう意味じゃ――」


妻の名を出され、急にしどろもどろになったアスランを横目で見ながら、カガリはふんと鼻を鳴らした。






沿道で歓声を上げる群衆の中に、黒衣の青年――シン=アスカの姿があった。車載ラジオは、カガリの功績をたたえる放送を繰り返す。


「統一連合樹立3周年記念式典か。いい気なものだな、独裁者。今日が貴様の命日になるのも知らずに」


小声で吐き捨てるように呟くと、シンは足早にその場を立ち去った。街路の角を何度か曲がり、路地裏に停車していた古い型のバンの助手席にに乗り込む。シンが固いシートに腰を下ろしてドアを閉めると、バンはくたびれたモーター音と共に発車した。


「コニール、状況は?」

「今の所は予定通りだね。サハラの虎や南米の連中はもう配置についてる。いけすかないバラに十字のお歴々もね」


運転席でハンドルを握っている若い娘――コニールが答える。年の頃は二十前後。よく日に焼けた肌は褐色、頭の後ろで括られた髪は茶色だった。気の強そうな眉が特徴的な顔立ちは、どこか猫を思わせる。


「ふん、どうやら幸運の女神は、まだ俺達にそっぽを向いていない様だな」

「女神さまはどうでもいいけどね」


ハンドルを切りながら、コニールがシンにどこか剣呑な口調で言う。


「1時間前に公園で騒ぎを起こしたの、あんたでしょう?」

「捕まるようなへまはしないさ」

「オセアニアのみんなカンカンだったよ?うまく誤魔化しておいたけどさ」


悪びれずに肯定するシンに、コニールは声を荒げた。


「まったく、連絡役で間に入ってるあたしの身にもなってよ」

「元々、この作戦に参加する予定だったのは俺とレイだけだ。お前が勝手についてきただけだろ」

「なっ――」


あまりの言い草に、激昂しかけるコニールだが、寸前で思いとどまると深々と溜め息をついた。


「あんたねえ。その前後左右360度に喧嘩売って回ってる態度、何とかしなよ」

「性分だ。今さら変えられん」

「……あっそ」


再び溜め息をつくコニールとシンの間に、第3の声がかかる。


《シン、この作戦で俺達リヴァイブの役割は、あくまでサポートだ》


不思議な事に、バンの中にはシンとコニール以外の姿は無い。もっとも注意すれば、その3人目の声が合成された電子音声だと気づくだろうが。


《オセアニア解放軍はこの作戦の下準備に、少なからざる時間と人員を費やしている。それを忘れるな》

「ああ分かっているさ、レイ」


素っ気無く”レイ”と呼ばれた声の主にシンは答える。その眼は街並みの向こうに覗く式典会場、クライン・アスハ平和祈念スタジアムに向けられていた。






式典パレードの隊列は、オロファト市中心部のメインストリートを進んでいた。このままクライン・アスハ平和祈念スタジアムへと行進するのだ。隊列を組んでいるのは、オノゴロ島に置かれた統一連合地上軍総司令部の直隷下、オーブ防衛を主任務とする精鋭師団「地上軍第一機動師団」だ。

100機を越える鋼鉄の巨人は併走する軍楽隊の奏でる行進曲に合わせて一糸乱れぬ歩調で進み、沿道を埋める数十万にも達する市民の興奮を高める。ザフト製モビルスーツの系譜に連なる曲面主体のシルエットと、ダガー系列の特徴が強く現れた頭部ユニットを併せ持ったその姿が、陽光を受けてきらめく。

統一連合軍の現行主力モビルスーツであるGWE-MP006Lルタンドだ。

外見から分かるように連合、プラント双方の技術を組み合わせて開発された機体で、『ナチュラルとコーディネイターの融和の象徴』として地球圏全域に配備が進められていた。

興奮した少年達が、目を輝かせて吹奏に合わせて合唱する。他の大人達もそれに唱和し、歌声はあっという間に広がっていった。歌が終わらぬうちに、それまでとは質の異なる甲高い響きが上空から降って来る。

見上げた市民の目に映ったのは、隊形を組んだ3機の戦闘機。鋭角的な主翼と機首のカナードが特徴的な機体は正確には戦闘機ではない。GWE-MP001Aマサムネ――第2次大戦時のオーブ軍可変モビルスーツ、ムラサメの後継機だ。原型となったムラサメ同様、空戦型モビルアーマーへの変形による高い機動力を誇っている。

3機のマサムネは、飛行機雲の尾を引きながら上昇する。

続いて旋回、錐揉み、急降下。

一隊だけではない。十数の編隊が入れ代わり立ち代わり僅かな時間差で現れては、巧みなアクロバット飛行の軌跡を蒼穹のキャンパスに描く。その度に地上からは、大きな歓声が上がった。尽きぬ歌声と歓声の中を、パレードは進んだ。


「フン……下らんな」


官庁街の一角にある、統一連合政府情報管理省の大臣執務室。部屋の主、アンドリュー=バルトフェルドは呟いた。執務室に据えられたモニターには、民間放送のレポーターが式典の様子を実況中継している様子が映されていた。


《ご覧下さい。沿道を埋め尽くす人、人、人……。ここオロファト中央通りには記念式典のパレードを一目見ようと人々が殺到しております。今ちょうど私の後ろをオーブの守り神、第一機動師団の精鋭モビルスーツ部隊が人々の歓喜の声の中、整然と行進しております……》

「……連中に真実など必要無い。ただ奴らが望む情報を餌として与えてやればそれでいい」


最高級のスーツに包まれた逞しい肩が、小刻みに震える。笑っているのだ。


「愚民どもが」


浅黒い精悍な顔に、傲慢そのものの笑みが浮かぶ。悪意と嘲弄が広い室内に満ち――


「……で、今日は愚民ごっこですか?」


心底、呆れ返った一言で雲散霧消した。


「その手の台詞は、夜景でも見下ろしながらブランデーグラス片手に口にして下さい。真っ昼間からコーヒー飲みながら言っても、馬鹿にしか見えません。遊んでる暇があったら仕事して下さい」

「手厳しいねぇ、ダコスタ君」


むしろ淡々と続ける声に、バルトフェルドはマーチン=ダコスタ筆頭補佐官を振り返る。ザフト以来の腹心の部下は、本来ならバルトフェルドが決済すべき書類の山と格闘していた。先程までの凄味はどこへやら。バルトフェルドは緩み切った表情になり、だらしなく背もたれに寄りかかると両足を机の上に投げ出した。


「またそんな格好を……部下に示しが付きませんよ」

「部下って言ってもここには君しかいないからねぇ」


小言をいうダコスタにコーヒーをすすりながら面倒臭そうに答えるバルドフェルド。


「一応閣僚の一員なんですから、もっとしゃんとして下さい。折角の礼服に皺が寄りますよ。式典で恥をかいても知りませんからね」

「夜の睡眠時間まで削って取り組んでいた一大イベントが一応の成功を見せてるんだ。多少だらけたって罰は当たらんさ」

「その代わり、昼寝はしっかり取ってましたね――何にせよ、お疲れ様でした」


実際、バルトフェルドの演出は完璧と言って良かった。統一連合を構成する加盟国の元首達が集うこの場で、統一連合軍はその力を遺憾無く見せ付けていたのだ。


「どうせならピースガーディアンも出した方が、印象が強くなかったですか?」

「今日の主役はアスハ主席だからね。こんな時くらい正規軍に花を持たせてやらんと煩いんだよ。……お、本命のお出ましだな」


モニターが真紅と黄金に輝く2体のモビルスーツを映す。パレードの隊列に参加したのだ。

真紅の機体はGWE-X002Aトゥルージャスティス、黄金の機体はGWE-X003A旭。

それぞれアスランとカガリの専用機であり、統一連合の力を象徴する超々高性能モビルスーツだ。真紅の騎士と黄金の王者の勇姿に、レポーターは興奮し、群集は一際大きな歓声が上がる。


「流石に目立つねえ。ま、アレには艦隊を丸ごと一揃え建造できるだけの予算をつぎ込んでるんだ。戦場に出ないのならせめて看板位には役に立ってもらわんとね」

「またそんな事を……。その内、舌禍で失脚しても知りませんよ」

「そうなったら、田舎に引っ込んで暴露本――もとい、回想録で一山当てるさ。ダコスタ君、君の事は誠意と勇気に満ちた有能な人材として描写しておくから安心したまえ」

「それはどうも」


どこまでも気楽に振る舞う上司に、ダコスタは深々と溜め息をついた。アンドリュー=バルトフェルド情報管理省大臣と比較すれば、カガリ=ユラ=アスハ主席代表は少なくとも一万倍は勤勉で誠実だった。彼女はまだ若く指導者として多くの欠点を有していたが、少なくともその中に怠惰という文字は存在しないのだから。