―背負いし旅立ち―
出典: 機動戦士ガンダムSEED Revival
アメノミハシラのシャトル発着場に、一人の少年が立っていた。
黒髪、黒い上下の服と全身が黒ずくめだの風体だが、特徴的なのはその目の色と、右の顎から頬にかけて縦に走った傷跡。まるで暗い炎を宿したかのような赤い色である。その服の色とあいまって死神を思わせなくでもない。
周りでシャトルの発進準備をしている男達も、暗い陰鬱な雰囲気が不気味なのか、決して誰も近寄ろうとはしなかった。
「天はニ物を与えず」と言うが広い世界には例外もある。ここにある例外は美しい女性の形をしていた。女性を先頭とした一団は、宇宙ステーション、アメノミハシラ宇宙港発着待合ロビーに向かっていた。威風堂々と歩む女性の名はロンド=ミナ=サハク。
オーブの影の軍神とも呼ばれる人物であった。
宇宙ステーション、アメノミハシラ宇宙港。地球へ向かうシャトルの出発時間が迫っていた。
その発着待合ロビーの片隅で、少年はじっと考えていた。 これから行う事になるであろう事が成功するのかどうかを。
地球へ行くシャトルの出発時間が迫っていた。その発着待合ロビーの片隅で、少年はじっと考えていた。これから行う事になるであろう事が成功するのかどうかを。
成功の可能性はひたすらに低い。
失敗すれば、死ぬ。……だが、そこまで考えて気がついた。失敗しても仲間のもとに行くだけなのだから、成功しようが失敗しようが自分にとっては大差がない。
どうせ自分はもう死んでいるようなものだから。
ただ、あいつらだけは必ず殺す。
自分が守りたくて守ると誓い。結局、守りきることができなかった少女。自分の恋人だった、赤毛の少女を殺した奴。親友の命を奪った奴、帰る場所を奪った奴。……そして全ての元凶であるあの女を。
「奴達は……奴等だけは何があろうとも俺が殺す!!」
つい口に出てしまう。無理も無い、それだけを考えこの三ヶ月間リハビリを行ってきたのだから。
どうすれば確実に奴達を殺せるか、自分の命などどうでもいいが奴等を殺す前に死ぬわけにはいかない。さっきまでは失敗しても死ぬだけだからと考えていたというのに、二転三転する考えに我ながら自分勝手なものだと、少年は苦笑する。
陰鬱な思考に心を占められてはいたが、これまでの訓練の成果というべきか背後から自分に対し近づいてくる複数の気配に彼は気がついていた。
その気配は自分の背後で立ち止まった。どうやら自分に用事があるらしい。今の自分に近づいてくるとは鈍いのか余程大物なのか、どちらにせよ酔狂なものだ。少年はそう思った。
「行くのか?」
背後から聞こえてきた聞き覚えのある涼しげな声に、少年は振り向く。振り向いた先には予想通り黒髪を伸ばした男装の麗人が立っていた。
「あんたか……世話になったな」
仏頂面で答える。実際には世話になったどころではない。なにせ少年にとっては、自分の命の恩人ともいうべき人物なのだ。彼女の部下が宇宙を漂っていた自分の機体を回収しなければ、今も彼は愛機と共に宇宙を漂っていた事だろう。少年の態度に彼女の側近達は何かを言おうとしたが、彼女が微笑を浮かべつつ片手を上げて抑えた。
彼女の側近が怒るのも当然だ。何せ少年自身でさえ、自分が取った子供のような態度に腹が立つ。彼女には感謝してもし尽くせないのに。
だが、どうしてもオーブという名が頭に浮かび、頑なになってしまうのだ。じっと少年を見つめながら、彼女は静かに問う。
「そうか。だが今さら地上に降りて何をしようというのだ。戦争はもう終わったのだぞ?」
「終わっちゃいない!奴は……いや、奴等は俺の全てを奪ったんだぞ!ルナを! レイを!ミネルバの皆を!」
言いつのる度に心がきしみ、少年の中の怒りと憎悪の念が強くっていく。周りで作業をしていた連中は、突然の大声に何事かと少年に視線を集中させる。しばしの間が、静かに流れた。
「そういえば」
今の叫びを目にしていたにもかかわらず今日の天気の話でもするかのような物言いに、興奮状態だった少年はようやく冷静さを取り戻す。
「お前の機体、修理もできない状態なので廃棄処分させてもらった」
「……そうか」
その事実は少年は軽い衝撃を受ける。覚悟していた事とはいえやはりつらいものだ。
(俺のデスティニー……議長に託された俺の剣。主人である俺より先に折れちまったか)
不意にミナが自分の部下に軽く目配せをする。すると部下が自分が持っていたアタッシュケースを少年に手渡した。思わず受け取った少年はいぶかしげにそれを眺めた。
「お前のモビルスーツを調べさせてもらった際に出てきた余剰パーツだ。捨てるのも勿体無いのでな。餞別代わりに持って行くがいい」
それだけ言うと、彼女は部下を従え去っていった。
デスティニーの余剰パーツ……ジャンク屋にでも売って路銀代わりにしろとでも言うのだろうか。少年には渡された意図が分からなかった。
シャトルが発進した後に“彼”が話しかけてくるまでは。
《久しぶりだなシン》
「レイ!?」
