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幕間~優しき英雄達~

出典: 機動戦士ガンダムSEED Revival

(Phase-06-00 から転送)

『ピースガーディアン』とは、キラ=ヤマト率いる地球圏最強の組織である。

元々は三隻同盟を中心とする独立軍団からラクス=クライン直属の親衛隊として編成されたキラ=ヤマトを隊長とする部隊、通称『アークエンジェル隊』を母体としており、第二次汎地球圏以後、オーブを守る盾として活躍している。

彼らの活躍を物語るエピソードの中でも最も有名なのが、CE74の8月中旬に起きた『大西洋連邦併合戦争』だろう。それまで「軍属ならば一度は耳にする御伽噺」でしかなかった彼等が表の歴史に初めてその名を記した事件だからだ。

メサイア戦直後、まだ混乱が収まりきらない8月15日。


『各戦線において介入してきたアークエンジェル隊の行為はテロ活動であり、それを自軍に取り込んだオーブはテロ支援国家である。したがってオーブは世界の平和を乱す原因である』


要約するとそのような内容の通信を大西洋連邦政府が一方的に送りつけてきた。つまりオーブに宣戦布告をしかけてきたのである。

尤もらしい理由を付けているが、戦後の世界においてオーブにイニシアチブを取られる事を良しとしない大西洋連邦が、復興は未だ終わっておらず、プラントを併合したとはいえザフト軍もオーブ体制に未だ組み込まれていない今を好機と捉えて宣戦布告を仕掛けた、というのが真実だと言われている。

宇宙軍はともかく地上軍はいまだ十分な戦力を保有していた大西洋連邦だが、その目論見は脆くも崩れ去る。キラ=ヤマト少将(当時)率いるアークエンジェル隊の前に圧倒的な戦力差にも関わらず9月の南大西洋海戦、ハワイ沖会戦とことごく敗北を重ねたのだ。そして当時の政権首脳も、反戦派の政府内クーデターにより権力の座から引き釣り下ろされ、戦争は終結。

この功績によりキラ=ヤマト少将は中将に昇進、さらに救国の英雄として非常に強い権限を与えられた。

その後、アークエンジェル隊は『平和の歌姫』ラクス=クラインと共に、相次ぐ戦乱によりその力の殆どを失い治安維持すらままならない世界各国の依頼を受け、戦火に迷う人々の支援や慰問活動、内戦の沈静化など様々な平和貢献を続ける。

こうした彼らの様々な活躍が認められ、CE75、1月、統一連合の特別顧問『平和の使者』に就任したラクス=クライン直属の近衛軍として、統一連合最高議会で承認を受ける。

名称を『ピースガーディアン』に改め、統一連合軍から完全に独立。何者の干渉も受け付けない『抑止力』となりうる組織として発足したのだった。

ピースガーディンの隊長は当然ながら英雄キラ=ヤマトが選ばれる。その際、戦力も大幅に増強され、主戦力として、傑作モビルスーツ『フリーダム』の量産機『フリーダムブリンガー』が開発される。

構成メンバーもナチュラル、コーディネイターを問わず、地球圏全体から選別された選り優りの人材が集められた。名実ともに世界最強の部隊であり、その陣容は神話に謳われた伝説の地『英雄』の集う館ヴァルハラのようだと称えられた。

平和を守る最強の剣にして至高の盾――。

地球圏の守護者を自認するピースガーディアンにとって聖地ともいえる場所、オーブ。

物語はそのオーブにて起こった記念式典襲撃事件から1時間後に遡る。






ピースガーディアン本部にて待機を命じられていたシラヒ=ホス=ホデリは不機嫌の極みにあった。よりにもよってカガリの命が狙われたからだ。

ホデリ家は代々アスハ家を補佐する立場にあり、シラヒ自身も幼少の頃からカガリ=ユラ=アスハの剣を密かに自負していただけに今回の事件はとても許容できるものではなかったのだ。だが周りに当り散らすわけにもいかず、自然と愚痴がこぼれてしまう


「俺達ピースガーディアンが駐留を許されていれば、こんな無様は晒さなかったものを正規軍の馬鹿共が!この程度の仕事も満足にこなせんとは……。カガリ様の身に何かあってみろ、隊長が許したとしても俺が許さん!!」


割と整った顔立ちに気さくな性格から、普段はそれなりに評判の良いシラヒであるが、あまりの怒り様にとても声をかけることが出来ず、すれ違う職員は一様に目をそらす。ただ、それでも廊下を走らないのは育ちの良さ故か。

向かう先はピースガーディアン隊長執務室。つまりキラ=ヤマトの部屋である。用件は二つ、カガリの安否の確認と同行の許可をもらう為だ。

行く手を阻む男はここにはいなかった。皆、彼の憤りはもっともだと思っていたからだ。……下手に声を掛けると殴られそうな雰囲気だった所為でもあるが。

という事で行く手を阻む男はいない。

行く手を阻む男はいなかった……が、“女”はいた。

長く伸ばした深緑色の髪に切れ長の瞳の気の強そうな女だ。


「何か用かレイラ。今お前に構っている暇はないんだが」


彼女の名はレイラ=ウィン。ピースガーディアンの一員で、シラヒと同じくホト小隊に所属している。自他共に認める熱烈なキラの大ファンで、オーブで出版されたキラの写真集を大人買いした一件は、部隊の中でもちょっとした語り草だ。

その彼女が何故か少し呆れたような顔をして、シラヒの前にいる。


「何か?じゃないわよ。あんたの事だから大方、隊長のところに乗り込んで『自分も連れて行ってください~』なんて直訴するつもりなんでしょ?」

「悪いか?」

「悪いわ。そんな酷い顔で隊長の御目を汚すなんて禁固刑モノよ。だ・か・ら、見目麗しいこのアタシが付き合ってあげるわ」


尤もらしい理由をつけているがシラヒはレイラの魂胆を見抜いていた。

こいつは……と内心呆れながら。


「遊びに行くんじゃないんだ、冗談じゃない」

「まあ、確かに冗談だけど、シラヒはもう少し落ち着いた方がいいと思うよ?」


いつの間にかシラヒの後に人のよさそうな青年が立っている。ホト小隊の小隊長を務めるウノ=ホトだ。


「隊長に直訴に行くつもりなんだって?あのね一応僕は君達の上司なんだよ?僕の許可もなく勝手な事をされたら困るじゃないか。仮に直訴するにしたって君一人で突っ走るよりも、小隊として護衛を兼ねて同行を申し出た方が、隊長も納得してくれるって考えなかったわけ?」


歳も近く私生活でも友人として付き合っており、元々上下関係にこだわらないウノにしては鼻に付く物言いに一瞬怯む。


「面倒な事は上司に投げて欲しいな。そうすれば泥を被らずにすむだろ?」


少し細い目をニコニコとさせながら、ウノはシラヒに言う。シラヒはやっと理解した。幼少のころからシラヒはカガリと付き合いがある。そのため部隊のほかの連中が、二人の関係を指して「またコネを使ったのかい?ホデリのお坊ちゃま」などと、常日頃から陰口を叩いているのをウノは知っていたのだ。

そしてそれをさせないために、ウノなりに気を使ってくれているのだと気付き、シラヒは感極まる。

元来単純で感動しやすい性質なのである。

おかげで冷静になれたので二人に礼を言おうと思い振り返ると、レイラはニヤニヤしているし、ウノもどことなく楽しそうな雰囲気を見せている。

何となくここで礼言うと負けかな、という気がしたのでやはり何も言わないことにした。

……どうせ次の休暇は財布に羽が生えるのだろうから。


(ちょっとわざとらしかったかな?)

(まあ、ね。でもこうでもしないと、後でまた陰口叩かれた~ってヘコむでしょ、コイツ)

「ナイショ話は本人に聞こえない所でやれ……」


そんな馬鹿なやり取りをしているうちに隊長執務室に到着する。代表者としてウノが扉を叩き形式的なやり取りの後、入室する。

いつも微笑みを絶やさず優しげな雰囲気を纏っているキラだが、今回ばかりは少しだけ厳しい顔をしていた。 その様子にシラヒは最悪の事態を想像し青ざめる。

そんなシラヒの様子に気付いたキラは


「カガリは無事だよ。それに彼達はすでに撤退しているらしいからもう安心していい思う。でもその時カガリをかばったアスランが怪我をしちゃったらしくて……それでちょっとね。」


と、少し困ったような笑顔で答えた。


「ところで、君達に頼みたい事があるんだけど、いいかな?」






――数時間後、中央政庁最上階、首席代表専用フロアにウノ達は居た。

先程のキラの頼みとはキラとラクスの護衛であった。実際には本隊が健在である為、ホト小隊に警護を任せる必然性は無い。にも拘らずホト小隊を選んだのは、シラヒの気持ちと、カガリにとっても弟のように可愛がっていた彼の顔を見れば少しは慰めになるのではないかという配慮からであるようだ。


「ご無事ですか、アスハ主席!」


プライベートルームに入るなりシラヒが発した第一声がこれである。怪我をしたのは自分なのに、どうみても傷一つ無いカガリしか目に入っていないシラヒにアスランは苦笑いする。


「こんな所でまで、『アスハ主席』はないだろ、シラヒ?」


悪戯っぽく微笑むカガリ。最近あまり見せなくなった素の表情にキラとラクスは安心する。


「あ……その、失礼しましたカガリ様」

「『様』~?ああ、悲しいな!昔は『カガリおねえちゃ~ん』とか言って、私に懐いてくれたのになぁ」

「え、いや……そんな昔の」

「あらあら、アスランの言ったとおり本当に仲の良い姉弟のようですわね」


ラクスが鈴を転がすような声で優しく笑う。

姉弟のような二人の微笑ましい光景に友達としては流石に笑ってはいけないよね、とウノは笑いを堪えた。

……がもう一人の『友達』は堪え切れなかったらしく、さっきから俯いたまま痙攣が止まらない。無理に我慢しようとしているせいで逆に怖い。






カガリだけでなくキラもラクスも久しぶりに暖かい気持ちになったようだ、とアスランは安堵する。

“私”というものを削りながら世界のために尽くす。それはとても素晴らしくとても美しくとても尊い事だ。だがそれを強いられている人達は、まだ世間では若者に分類される年齢なのだ。

自分はまだいい、父を裏切り、自分を慕う後輩を裏切ってまで自分のエゴを貫いた極悪人なのだ。この程度の苦労は苦労の内に入らない。

だが我が身を省みずただひたすら平和を望む彼らだけが重荷を背負わなければならないこの世界は正しいと言えるのか……。正しくないからあいつはまだ戦いをやめないのではないだろうか。

一人悩むアスラン。






その様子に気付いたキラは雰囲気を壊さないようにさりげなくアスランを誘いベランダに出た。


「何かあったの?事件のことだけで悩んでいるんじゃないみたいだけど」


どこから話せばいいのかとアスランが言葉を選んでいるといきなり核心を突く指摘をされた。


「敵わないな、キラには」

「アスランはわかりやすいからね」


お互い様だ、と笑いあう。

しばしの沈黙。そして胸の内にある澱みを吐き出すようにアスランは静かに語りだした。


「シンを見たんだ」

「シン?アスランがザフトに居たときに部下だったっていう彼かい?」

「ああ、遠くからだったけど間違いない。信じたくはないが……カガリを撃ったのはあいつだった」

「!?……つらいね」

「ああ……」


アスランはそう呟くと街を見下ろした。テロによる混乱も今では一段落しており、時折車が行きかう音がするものの静かなものである。


「ここは……オーブはあいつの故郷なんだ。少しずつ世界は平和に向かっている。それなのに……あいつは」

「ねえ、彼とはもうわかりあえないのかな?僕は彼の事をよくは知らない。だから偉そうな事をいう資格はないのかもしれないけど」

「ああ、俺だって何とかしてやりたいんだ。あいつは日の当たる場所に居ていい奴なんだ」

「分かり合えるといいね」

「ああ」

「でもね、アスラン。……オーブを……ラク………なら僕は……」


強風が吹きアスランの髪が乱れ視界を塞ぐ。

その所為でキラの声は遮られる。キラは髪を撫で付けると


「風がきついね。そろそろ戻ろう、アスラン」


そう言って部屋に戻った。

しかしアスランは動けなかった。

突風のせいで見間違え、聞き間違えた。

そう思いたかった。

だが鍛え抜かれた視覚と聴覚はそれを許さない。

最後にキラが呟いた言葉とその時の表情は彼の脳裏にはっきりと焼きついてしまったのだから。

キラはいつもの優しい笑みを浮かべたまま言ったのだ


(でもね、アスラン。彼がオーブを……またラクスやカガリを傷つけるというのなら僕は……僕は、彼を討つ事を躊躇わない)


まだ9月、しかも赤道直下のオーブにいるにもかかわらずアスランは冷たい汗が止まらなかった。

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