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レジスタンスの戦い

出典: 機動戦士ガンダムSEED Revival

(Phase-06-30 から転送)

10月末にもなると日が昇るのがずいぶん遅い。時計ではもう午前5時を回っているはずなのだが、夜が明ける気配はない。 真っ暗な夜空に無数の星々が瞬いている。今日は新月なので、一欠けらの明かりもなかった。大地も山々の稜線も全て暗闇の中に溶け込んで、星々切れ目だけ僅かにそれが天と地の境目だという事を教えてくれる。

そんな真っ暗な早朝の荒野に、三機のモビルスーツが歩いていた。シグナスと呼ばれるリヴァイブの主力モビルスーツだ。

その彼らは普段の武装の他に、それぞれ巨大な円筒形の筒をいくつか持っている。それをある程度歩いてその辺に突き刺す。 すると円筒形の筒は地面に潜っていった。彼らはその作業を場所を変えつつ何度も繰り返していた。


《ローゼンクロイツの部隊は上手くやってくれるでしょうか?》


中尉の声が大尉のコクピットに流れる。


「……こればっかりはあちらさんを信用するしかないな。俺達は俺達の仕事をするしかない」

《それは、そうですが》

「不安か?」


モニターに覗く中尉の表情はいつもと変わらない。だが僅かに漂う気配から、彼が多少の不安を抱えているのが大尉にはすぐにわかった。だてに長年付き合っているわけではない。


「なにせこの三機だけで、アリーの街に攻撃を仕掛けるんだからな。正直、俺も怖いさ。だがここまで来たら開き直るしかないだろうよ」

《確かにそうですね。すでに賽は投げられたわけですし》

「そういう事だ」


フッと笑みを交わす二人。この辺の阿吽の呼吸は今も健在だ。するとその時、もう一つのモニターに軽薄そうな男が映る。 少尉だ。


《こっちは大体埋め終わったぜ。取りあえず準備はバッチリだ》


中尉と違って、少尉はむしろ楽しそうに見える。この男なりには不安なのだろうが、少尉はそれをおくびにも出さない。性格の差、といえばそうだが中尉が不安がるからこそ、少尉も脳天気でいられるのだろうと大尉は思う。


《貴方はなんでそう、脳天気なんですか?もう少し真剣に考えて下さい》

《んな事言ってもよぉ、今更考えても仕方ねーじゃん》


このような会話が出来るのはお互いの信頼関係に寄るものだろう。


「おい、もうそろそろ行くぞ。気合いを入れろよ」


大尉はうっそりと二人に言うと、遥か遠くに見えるアリーの街明かりを確認する。このコーカサス州の中では有数の大きな街の筈なのに、街灯の光は満足に見えなかった。辛うじて、今にも消えそうな微かなともし火が、いくつか見えるだけだ。

単に占領されただけでそうなってるわけではない事は、大尉にも分かっていた。コーカサス州全体がそうであるように、ここも飢えと貧しさとは無縁ではないのだ、と。

大尉は時計を確認すると、もうすぐ午前6時になろうとしてた。まもなく夜が明けるだろう。

一日の始まりとともに、たった三機の無謀な喧嘩が始まろうとしていた。






荒野の中をサイドカー付きのバイクが砂塵を上げて走る。シンとコニールだ。コニールは砂に足を取られぬように、慎重に運転している。サイドカーの席上ではシンが、目を閉じて黙り込んでいる。これからの作戦のために、少しでも力を残しておきたいのだ。ふと、コニールが口を開く。


「ねえ。あんた、ソラの事どう思ってるの?」

「何だって?」

「ソラよ。あの子の事をどう思ってんのって聞いてるの!」


そこにAIレイが口を挟む。


《この朴念仁にそういう質問は限りなく無意味に等しいぞ》

「お前、こんなにダストと離れていてもまだ通話出来るのか?」

《そう……でもない。もうそろ……通話が出来な……る距離だ》


通信にノイズが走り始める。電波が途切れそうになっている証拠だ。


「……シン、あのさ」

「コニール、今は作戦の事だけに集中しろ」

「……わかったわ……」


もうそれ以上、シンは何も言わなかった。ただ無機質なバイクの走行音だけが二人の間に流れていく。シンがこんな問いに答えないだろう事はコニールにも分かっている。この男にはそういう話は無意味なのだと。しかしそれでもコニールは確かめたかった。つい聞いてしまった出撃前のシンとソラの会話。

そこでコニールは、ソラの気持ちが少しずつシンに向かっている事に気づいてしまったから。かすかだが言いようの無い不安が彼女の中で頭をもたげる。戦場で感じるそれとは全く異質なもの。それが何なんか今のコニールには全く分からなかった。


(ダメだ。シンの言う通り今は作戦に集中しなきゃ)


雑念を振り払うように彼女は遠くを見やる。


「あ!見えてきたわよ!」


視線の先に目標物があった。アリーの街より数キロの地点にある観光名所でもある遺跡『バルアミー鍾乳洞』。そこが、シンとコニールの目的地だった。






「むぅっ……」


徴用した官舎の中に用意させた仮眠室で、アデルは大きく伸びをして体をほぐす。昨日は結局、一睡もできなかった。積年の恨みが果たせるという興奮からか、眠気が全く起きなかったのだ。


「クックックッ。イカンな、これではまるで初年兵のようではないか」


収まらぬ自分の気持ちの高ぶりに、アデルはたまらず苦笑する。


(昨日の内に来る、と思っていたんだがな。……ならば、今夜か?)


戦力が大幅に劣るリヴァイブが取れる選択肢は少ない。相手の戦力が低い場合、守備側が気をつける事は《奇襲》だ。戦力が戦力として機能しないタイミングを狙う、それは勝負の鉄則である。新月で月明かりも期待できない昨夜であれば、それは絶好のタイミングであっただろう。それ故、アデルは夜襲で来ると判断し、そのための布陣を敷いた。

だが実際には彼らはいつまで経っても来なかった。そこでアデルは部隊を二部隊に分け、半数をそのまま警戒に、残りを休ませた。設営した司令部に入ると、アデルは夜通し働いた兵達を労わりつつ、現状を聞く。


「どうだ?」

「いえ、未だ異常はありません」

「……そうか。あと30分したら、交代をよこす。お前達も少し寝て来い。意外に長丁場になるかもしれんぞ」

「はっ!」


ぼけた頭を覚まそうとアデルは当番兵にコーヒーを持ってくる様に言う。するとその時、レーダーを監視していた士官が興奮した叫び声を上げる。


「ア、アデル大尉!アリーの街より九時方向、モビルスーツを三機確認!識別は“シグナス”、リヴァイブです!!」

「な、何い!?」


よもやの来襲に一瞬アデルも慌てるが、直ぐに頭を切り換えて怒鳴りかえす。


「確かなのか!?この朝っぱらにか!?」

「間違いありません!!映像センサーでも確認されました!」

「どういう事だ?奴ら兵法も知らんのか?」

「敵モビルスーツ、移動開始!真っ直ぐ街に向かってきます!」


しかしチャンスには違いない。アデルの口元に思わず笑みが浮かぶ。


「よぉし!全モビルスーツ隊機動!敵モビルスーツを迎撃せよ!俺はムラマサで出る!!」


すぐにアデルはムラマサの格納庫へ向かう。あの三機が出てきている、という事は例のガンダムタイプも居るはずだからだ。 アデルは勝利を確信していた。兵法も知らぬ馬鹿を相手に負けるはずがない、と。この時、その”馬鹿”に負け続けたという事実は、この時のアデルの頭の中から完全に抜け落ちていた。

ルタンドの機動は早い。とにかく現場からの声を聞いて作り上げられたモビルスーツだけに、機動シークエンスなどの手順は驚くほど簡略化が成されていた。“搭乗者に優しい”という謎めいたキャッチフレーズ通り簡略化をコンセプトに作られたこの機体は、各機体の中でも真っ 先に立ち上がる。

次いでゼクゥ。バクゥの後続機種として作られた四脚モビルスーツで、よりスマートなシルエットをしている。 こちらも素早く機動していく。両機とも迎撃用モビルスーツとしての特性を十分に兼ね備えていた。

そして最後に大型連装砲門を持つザウートが、ゆっくりと動き出す。砲撃戦では未だ威力を見せる地上戦用モビルスーツだが、こちらは旧式だけに少々手間取っているようだ。ルタンドとゼクゥの混成部隊が街の中から出撃してくる。 それらの動きは、当然大尉達のシグナスのモニターでも捕らえていた。


《前方、敵モビルスーツ確認!ザウート三、ゼクゥ五、ルタンド五!》


中尉が叫ぶ。三機のシグナスは緩やかに蛇行しながら、街目指して荒野をまっしぐらに走り抜ける。すると街の方角から彼らに向かって、幾重ものビームが放たれた。いくつもの光弾がシグナスの横を通り抜ける。遠くに見えるアリーの街の前で立ちはだかる、政府軍のモビルスーツ部隊が撃ってきたのだ。まだ有効射程外だというのに。


「来るぞ!気合いを入れな!」

《了解!》

《おっしゃあ!》


あの可変モビルスーツ、マサムネの姿はまだ見えない。第一次攻撃はマサムネが動き出すまでだ。とにかくそれまでの間に、ある程度のダメージを与えておきたい。大尉は決断する。


「ライトニング=フォーメーション!Act.アルファ!!」


大尉がそう言った直後、今まで緩やかに蛇行していたシグナス達の動きが一変する。大尉と少尉が左右に分かれ、さらにスピードを上げて突撃してきた。しかもその動きは一層鋭角的に大きな軌道を描くようになったのだ。それに合わせるかのように、政府軍のモビルスーツ隊も左右に分かれた両機に次々と砲火を浴びせる。ザウートの砲火が轟き、少尉機の直ぐ側で爆炎が上がる。


「んな、ヘナチョコ弾に当たるか!」


こんな程度で萎縮する少尉ではない。スラローム走行で、ますます大胆にシグナスを駆っていく。 少尉機が前衛のルタンドとゼクゥにビーム突撃銃を乱射する。当たる当たらないではない、とにかく牽制だ。

同じように大尉機も乱射する。大きく左右に動き回るシグナス二機と、街を背に陣形を取る政府軍モビルスーツ隊。両陣営から放たれた無数のビームがいくつも交差し、宙を焦がす。だがどちらにも致命打は与えられない。やや戦線が膠着の様相を見せたその時、一条のビームが後列にいた後列に居たルタンドの頭部を破壊した。


「やったぜ!」


少尉が叫ぶ。中尉のスナイパーライフルだ。まるで針の穴を通すかのような見事な狙撃で、敵の陣形に穴の開ける。中尉は大尉達が敵の攻撃を霍乱しているさなか、一旦下がったように見せかけ、その実後方から狙っていたのだ。

これが大尉達が編み出した戦術「ライトニング=フォーメーション」である。三機一体で織りなす戦術の数々の中核であり、ここから数々の基本戦術が生み出されている。そのうちの一つがAct.アルファと呼ばれるもので、少尉と大尉が敵を引きつけ、中尉が攻撃するというコンセプトのフォーメーションだ。

少尉と大尉が左右に大きくジグザグ動いて、敵の注意を引きつける。一旦下がったように見せかけた中尉から敵の目を目をそらしつつ、スナイパーライフルで相手を狙撃。すかさず離脱し体勢を立て直すという、所謂一撃離脱用のフォーメーションである。

勿論、中尉は一番後列から狙撃するので、撃った弾が少尉や大尉に当たる恐れはあるが、これまでも中尉は誤射をした事は無い。おそらくはこれからも。 陣形に穴を空けられ、一瞬政府軍モビルスーツ隊の間に動揺が走る。


「よし!マサムネが来る前に逃げるぞ!ライトニング=フォーメーションAct.ブラボー!!」


大尉がすぐさま指示を飛ばす。


《了解!》

《あいよっ!そこらじゅうに”目くらまし”をばら撒いてやるぜ!》


すぐさま少尉が前面にチャフの混ぜられたスモーク弾を発射する。大尉達のシグナス隊と政府軍モビルスーツ隊の間に、真っ白い煙の壁が立ちはだかった。

Act.ブラボーは”撤退戦用の陣形”なのだ。後詰め、いわゆる殿(しんがり)に少尉が当たり、大尉が指揮、中尉が支援砲火を行う陣形である。チャフが混入したスモークの前ではセンサーも役に立たない。視界を封じられた政府軍モビルスーツ隊、ゼクゥとルタンドの部隊が一気に突撃してきた。

その様子にコックピットの中で大尉はニヤリと笑う。三機のシグナスはゼクゥ、ルタンド隊を引きつけながら撤退を図っていく。かねてからの作戦通りに。






一方、リヴァイブ基地。ローエングリン砲要塞を再利用したこの基地には、今人がほとんどいなかった。基地の人員は戦闘のためにほとんど出払っていて、今残っているのはごくわずかな非戦闘員しかいない。その中には指揮官たるロマもいた。

前線指揮は大尉に任せ、今回の彼の役目はリヴァイブとローゼンクロイツとの協調を取るための、前線に必要な情報や指示を送る事だった。そのためにはすぐに情報が集められ、かつローゼンクロイツの上層部にもすぐに連絡が取れる基地の方が、何かと好都合だったのだ。刻々と新しい情報が入ってくる。

ロマの見たところ、状況は今のところ順調のようだった。


「“釣り野伏せ”?」


耳慣れない言葉にソラはきょとんとする。 初めて聞く言葉なのだろう。よく分からないみたいだ。


「大尉曰く“古き良き伝統”の戦い方、だそうだよ」


食堂で休憩に入れたコーヒーを飲みながら、ロマはそう言った。彼の傍らには、いつでも対応できるように通信機が置いてある。

ロマが休憩に食堂を訪れると、丁度そこではソラが夕食の仕込みに、ジャガイモの皮むきをしている所だった。すると作戦の状況が気になったのか、ロマの姿を見るや否や状況がどうなっているのか聞いてくる。それはもうしつこいぐらいに。出撃したシン達を心配しているのだろう。そこである意味やむなくロマは彼女に状況を教えてやる事にしたのだった。

持っていた地図の上にチェスの駒を置いていく。駒は大尉達と相手方のモビルスーツ隊の動きを表していた。


「大尉達は、まず敵部隊に一撃を加えて、そのまま攻め込むとみせかけて全力で離脱する。敵を引きつけながら、ね」


チェスの駒を動かしならが、ロマは説明を続ける。戦略などソラには縁遠い内容の話だが、なんとなく言いたい事はわかった。


「敵を引きつけて罠にかける、という事ですか?」


ソラは歴史が好きだったから、軍記物なども良く読んでいた。その中には撤退戦を仕掛け、相手を罠にかけるシーンが何度と無くある。


「それだけじゃあ無いんだよね、大尉の考えたシナリオは。あの人が味方で、本当に良かったよ」

「……はぁ」


“釣り野伏せ”とは数ある撤退戦術の中でも有名な戦法だ。日本の戦国時代では島津義久が得意とした戦術であり、当時の天下人、豊臣秀吉に対しても一矢報いた程の有力な戦術である。この戦術が成立する条件は二つ。

①まず接触した部隊が、退却しつつ攻勢を加えていく。

②①に呼応するように別働隊が敵側面を突く。


「これだけ見れば簡単そうなんだけどね。でもね、これが結構難しいんだ」


そういうとロマはまたチェスの駒を動かしていく。


「この作戦の重要なところは、実行には撤退をする部隊が敵を引きつけなければならない所にあるんだ。でも損害を与えすぎてはいけないし、損害を受けすぎてもいけない。損害を与えすぎると敵が追撃を諦めてしまって、戦力の分散ができなくなるし、逆にこちらの損害が大きすぎると、撤退すらできなくなる。微妙な匙加減が必要なんだよ」

「そ、それって凄く難しいんじゃありません?シンさん達だけでなんとかなるんですか?」

「いや、勿論これだけじゃあ勝てない。なにせ今回の敵はとにかく数が多いからね」


ロマの説明にソラも頷く。それぐらいは素人の彼女にも解る。何故ならこちらの戦力だけでは①はともかく②をクリア出来ないからだ。そんなソラの顔を見ながら、ロマは満足げに笑った。


「そこで僕が用意した『奇策』が生きてくるのさ」






シンとコニールはバルアミー鍾乳洞に着くやいなや、バイクでそのまま乗り込み、鍾乳洞内を走っていた。


「もっとマシな道は無かったのかよ!」


シンが叫ぶがコニールは意に介さない。


「仕方が無いでしょ!?こういう道しかないんだから!」

「これは”道”なんて言わない!大体、お前が教えてくれる”道”で良い事があった試しがあるのか!?」


バイクが大岩を飛び越え、その向こうの小道に着地する。その横には断崖があり、一歩間違えばそこに落ちてしまうタイトロープのような有様だ。


(また鍾乳洞の中を行くハメになるとは思わなかったぜ……)


ふとザフト時代の記憶が甦る。当時シンはローエングリン砲台を陥落させるために、鍾乳洞の中をコアスプレンダーで飛んだ。あの時もかなり肝を冷やしたが今度はバイクだ。


(アリーの街に着くまで、俺は生きて居るんだろうか……?)


今更愚痴を言っても仕方が無い。仕方なくシンはシートに深くふて寝する事にする。


「……着いたら、起こしてくれ」


隣のコニールのやけに楽しそうな横顔を見ながら、シンは胃がキリリと痛むのを感じていた。






敵の三機のシグナスは牽制しつつ、撤退していく。一方こちらは、ルタンドの一機が頭部を吹き飛ばされて行動不能になった他は、味方のゼクゥ・ルタンド隊が順調に敵を追い詰めていた。この後さらにマサムネ隊が支援に加わる予定だ。上空のムラマサから戦況を観察していたアデルは、テロリスト達が何を考えているのか推測していた。


(……罠、か。この戦力差ではそれしかないが)


テロリスト達の狙いは、言うまでもなくアリーの街の奪還だとアデルは睨んでいた。そのためにはアデル達政府軍を退けさせなければならない。そう考えていくと、今のシグナス達の動きは”こちらを罠にかけるために動いている”と見るのが妥当だと、アデルは考えていた。

かといってアデルに兵を引かせる考えは無い。アデル達の目的はアリーの街を守る事では無く、アリーを利用して出てきたテログループを殲滅するのが目的なのだから。ならば多少の罠であろうと打ち破るつもりでいた。それ故、アデルは敵の思惑が丸見えの撤退戦に付き合う事にした。万が一の時はこのムラマサで支援してもいい。戦力にはまだ余裕がある。それが今のアデルに戦況をゆっくりと観察するゆとりをもたらしていた。

しかし、同時に彼は思考の隅に引っかかるものも感じていた。


(……戦力比を考えても奴らの方が劣勢なのは明らかだ。ならば同じ罠を仕掛けるにしても、夜襲で使うなり、奇襲を狙うなり、もっとこちらの隙をうかがう攻め方があったはず。なのに何故テロリスト共はそうせず、あえて白昼堂々攻めてきたのだ?)


今現在戦っているのはリヴァイブのモビルスーツ、シグナス三機のみ。それが逆にアデルを不安にさせる。


(こっちのモビルスーツ隊を街から離させた後に、歩兵部隊でアリーの街を奪還するつもりか?いや、だとしても街に駐屯するこちらの部隊の方が数は圧倒的だ。それが分からん連中でもあるまい。一体どういう事だ……?)


ゲリラは隠密行動に徹するから利があるのだ。そこに罠を張るから、効果も上がる。それすらもかなぐり捨てたリヴァイブの戦略に、アデルは不可解なものを感じていた。


(罠を仕掛けているのは間違いないだろう……?しかし一体どうやって?奴らの戦力にはもう余裕はないはずだ。それともまだこっちが掴んでいない隠れた戦力でもあるというのか?)


アデルの思考はいつの間にか、答えの見えない疑問の迷宮に陥っていた。これこそが大尉の考えていた戦術の効果である。中途半端に相手の戦力を知っているだけに、逆に一度疑いが生じるとどこまでもキリが無くなるのだ。さらに彼を疑心暗鬼に陥れるのが……。


(しかも例の”ガンダムもどき”はまだ見えないと来ている。奴は何処だ!?何処から来るつもりだ!)


この時アデルは自覚していなかったが、彼は焦っていた。アデルの本当の目的は”ガンダムもどき”――すなわちダストの撃墜だった。一機とはいえダストの戦闘力は既に証明されているように、十分な脅威といえる。しかもその相手に二度も苦渋を飲まされているのだ。


(奴だけは俺が倒す……!)


ダスト打倒への執念がアデル自身をシグナス隊追撃に向かわせず、ここに留まっていた強力な動機となっていた。もちろん戦況が不利になれば、その限りでは無かったが。だがそれはある意味、大尉の戦術が予想以上に成功していた事を意味していたとは、当のアデルは気づくよしもなかった。

この時ゼクゥ、ルタンド隊に続いてアデルがムラマサ隊までを戦線に投入していれば、シグナス達は捌き切れなかったかも知れない。数が違う上に、空と地上からの二面攻撃を受けては、さすがの大尉達ももたなかっただろう。 だがアデルはそうはしなかった。通信機を取り、ルタンド隊に命令する。


「私だ。敵の追撃はゼクゥ隊とマサムネ隊に任せ、ルタンド隊は街の守備に回れ。敵の別働隊が潜んでいる可能性がある。繰り返す。ルタンド隊はザウート隊と共に、アリーの街の防衛に当たれ」

《了解》


命令を受けたルタンド隊は踵を返し、街に戻る。 入れ替わりにその上空をゼクゥ隊が向かっていった方角へ、マサムネ隊が通り過ぎていった。

既に一機が中破していたし、そのまま追撃させるにはルタンドはゼクゥの機動力に付いて行く事ができず、連携が難しかった。現に前を行くゼクゥとルタンドの間はかなり距離が離れていたし、更に都市防衛の面で歩兵部隊だけでは如何にも不安もあった。そして何より未だ姿の見えぬダストの存在が、アデルにそういう判断を余儀なくさせていた。


(ゼクゥ隊の支援はマサムネ隊に任せるから、まあ大丈夫だろう。あとは、奴だけだ……!)


アデルはムラマサのコックピットの中でどこかに潜んでいるであろう、ダストの気配に神経を尖らせる。かくて大尉のシナリオ通り、敵部隊は攻撃部隊にゼクゥ及びマサムネ隊、防衛部隊にルタンド、ザウートと分断される。

戦術とは、効果的に兵を配置し、運用する事だ。その点に置いて大尉は”敢えて兵を見せない”事で敵戦力を分断させ、”時間単位における戦力差”を減算させる事に成功しつつあった。つまり、敵に遊兵(この場合は戦闘に参加しない兵)を作らせる事に成功したのである。『兵は欺道なり(戦争とは敵を欺く行為である)』とは、まさにこの事だろう。






こうして政府軍の戦力は二分され、大尉達を追撃する戦力も減った事になるが、では彼らが楽になったかというと、そうでもなかった。


《でー!!ルタンドが居なくなってからの方が、ゼクゥが生き生きしてやがる!》

《そりゃそうでしょう。あっちの方が明らかに足が速いんですから!》


少尉と中尉が悲鳴を上げる。砂塵渦巻く荒野の中で、五機の四つ足モビルスーツに追い立てられた三機のシグナスは、まさに四苦八苦の様相を呈していた。ゼクゥはバクゥの後続機種である。地上での機動力、速力は他の追随を許さず、ここにおいてもその威力を遺憾なく彼らに見せ付けていた。


「ルタンドがいなくなったら、こいつら急にスピードを上げやがったな!足手まといだったってわけかい!」


大尉機がビーム突撃銃を乱射する。だがゼクゥは難なくそれをかわし、逆に背部にある連装ビーム砲を撃ち返してきた。


「くそぉ!」


なんとかかわす。だが別のゼクゥが横に回り込む。大尉機の死角だ。


「チッ!」


後ろを取られたか、大尉がそう覚悟をした瞬間、スナイパーライフルから放たれたビームが、ゼクゥをかすめてていった。すると形勢が不利と見たのか、そのゼクゥはあっと言う間に後方に下がっていく。


《大尉!大丈夫ですかか?》

「スマン、中尉!」


大尉達は機動性の高いゼクゥ隊を捌くのに、必死だった。シグナスとて足は速いが、流石に平地ではゼクゥの速力に敵うものでは無い。幸い撤退したタイミングがかなり早かったので、包囲される事はなかったが、ゼクゥ隊は隊列を整え、ジリジリと三機のシグナスを追い詰めてくる。さらに。


《!?……二時方向、マサムネ来ます!》


――新手が来れば、また問題は別だ。


「中尉、対空散弾!!」


大尉が言葉少なに指示を出す。中尉は直ぐに動いた。


《了解。フォロー願います!》


少尉と大尉のシグナスが、ゼクゥ隊と中尉機の間を塞ぐように移動する。精密射撃をする時はどうしても足は止まるか、そうでなくとも単調な動きになる。この状況下で足を止める事がどれ程危険な事かは、言うまでも無い。


《散れっ!手前……ラァッ!!》


少尉が温存していたミサイルポッドを全弾発射する。同じように大尉もミサイルを射出する。弾幕に視界を遮られ一端距離を取るゼクゥ隊。


――そして数瞬出来た隙に中尉は対空散弾の狙いをマサムネに定め、撃つ。


かろうじてマサムネはそれを回避する。外れた散弾は地上のゼクゥに雨の様に降り注ぐ。しかし散弾はゼクゥの装甲に少しの焦げを作っただけで、ダメージと言えるほどのものは与えられなかった。


「……焦らせやがって!そんなオモチャじゃ何発喰らっても効かないぜ!!」


マサムネのパイロットが吼える。彼は散弾の弾幕は脅威足りえないと判断し、攻撃を仕掛けてきた。それこそ中尉達の狙いだとも知らずに。

中尉は再び狙いを定め対空散弾を放つ。が、威力を見切ったマサムネはかわそうともせず距離を詰めてくる。そしてそのまま散弾の弾幕の中に飛び込んだ。


「な、何!?」


マサムネのパイロットは驚愕する。突然、コックピット内に警告ブザーが鳴り響き、機体がコントロールを失ったのだ。 咳き込んだような音を立て、たちまちエンジンが止まってしまう。マサムネのパイロットは機体に一体何が起きたのか理解する前に、地上に墜落していった。それを見た残り二機はあわてて上空へ退避する。


《いよっしゃぁ!》


まんまと嵌った敵の姿に少尉は、中指を立てカッツポーズを見せた。

中尉の射出した対空散弾とは俗称で、正式に配備されている弾頭では無い。レジスタンスが開発した“対戦闘機用のエリア攻撃兵器”という代物だ。

ある一定距離を進んだ後に爆発し、かなりの広域に散弾を散布する。その散弾一つ一つは鋼鉄ではなく、強化プラスチックのカプセルの中に爆発性の溶液が入っている。それ自体はとても戦闘機を撃墜できる威力は無い。だが、この武器が効果を発揮するのは、”その弾が一つでも戦闘機のエアインテークに吸入されてから”なのだ。強化プラスチック内の溶液は、一定の温度に達すると小規模ながら爆発を起こす。機体の中の高温に反応し、それが一つでも内部で爆発してくれれば、たちまち内部機構が破壊され、機体は動作不能に陥るのである。

マサムネ隊は見かけの威力に騙され、回避を怠った為、見事引っかかったのだ。

一機撃墜。しかし喜んでいる場合ではない。大尉が叫ぶ。


「馬鹿、横から来るぞ!避けろ!」


一機のゼクゥが肉薄し、口に構えたビームサーベルが少尉機を襲う。間合いが近すぎて大尉達もフォローができない。


《……なろおっ!!》


少尉は無理に避けようとせず、そのまま肩からゼクゥに体当たりをかける。ビームサーベルがシグナスの左腕を切り裂き、そのままボディを切り裂こうかという寸前、シグナスはゼクゥをかち上げた。バランスを崩し、ゼクゥの体が宙に吹き飛ぶ。 思い切りのいい少尉で無かったら死んでいただろう。


「油断するな、少尉!」

《す、すんません大尉!》


すぐさま大尉が少尉のフォローに入り、再び三機のシグナスは撤退戦を続行する。彼らは待っていたのだ。戦局が変わる瞬間――ロマが提案した『奇策』が実行される時を。